小規模SaaS M&A・失敗パターン
小規模SaaS M&Aでよくある失敗パターンとその回避策
小規模SaaS・個人開発サービスのM&Aでは、 「金額もそんなに大きくないから大丈夫だろう」と油断した結果、 後から思わぬトラブルになるケースがあります。 本記事では、実務で見かけることが多い失敗パターンをいくつか抽象化し、 それぞれの回避策を整理します。
対象としているケース
- 月商数十万〜数百万円規模のSaaS・Webサービス
- オーナー1〜2名、開発者も少人数の体制
- 初めてM&Aを経験する個人オーナー・小規模事業会社・仲介会社を想定
パターン1:売り手・買い手で「何を引き継ぐか」の認識がずれている
最も典型的なのが、引き継ぎ範囲の認識ズレです。売り手は「このサービス全部」と思っていても、 買い手は「コードとドメインだけ」とイメージしている、といったケースです。
- 顧客リスト・問い合わせ履歴・マニュアル類は含まれるのか
- 運用に使っている外部SaaS(Slack, Notion, Zendeskなど)はどうするか
- インフラやアカウント(AWS, GCP, GitHub, Stripeなど)の名義変更可否
回避策:最初期に「引き継ぎスコープ表」を作る
ざっくりで構わないので、「技術」「顧客・データ」「運用・サポート」「その他権利」といった項目ごとに、何を含めるか/含めないかをテキストで整理しておくと、 後からの認識ズレを大きく減らせます。
パターン2:売り手側の準備不足で、途中から情報が出てくる
売り手にとって初めてのM&Aの場合、 「何をどこまで出せばよいか」が分からず、後から重要な情報が出てきてしまうことがあります。 これは買い手の不信感につながり、条件の見直しや破談の原因にもなります。
- 大口顧客の解約予定やトラブルが、交渉の後半で判明する
- 主要機能が実は特定顧客向けのカスタムであることが後出しになる
- インフラコストが想定より高く、後から請求額が判明する
回避策:売却検討の初期段階で「棚卸しの時間」を取る
売り手側は、M&Aの検討に入る前に、売上構成・主要顧客・解約状況・コスト構造・技術的な懸念点を一度棚卸ししておくと、安全に話を進めやすくなります。 第三者と一緒に棚卸しすることで、抜け漏れのリスクも減らせます。
パターン3:技術リスクが十分に評価されず、買収後に想定外の負担が乗る
小規模案件では、コストや工数を抑えるために、技術DDがほとんど行われないままクロージングしてしまうケースもあります。その結果、 買収後に技術負債やセキュリティリスクが顕在化し、 想定以上の追加投資を迫られることがあります。
- テストがほぼなく、軽微な改修でも障害が頻発する
- フレームワークがEOLで、サポートが受けられない
- 個人アカウントに権限が集中していて、運用変更に時間がかかる
回避策:スモールスコープでも良いので技術DDを入れる
フルスコープの技術DDが難しくても、「主要機能」「認証まわり」「インフラ構成」だけでも確認するといったスコープ設定は可能です。 重要なのは、「見ていない領域」を自覚したうえで条件や価格を検討することです。
パターン4:コミュニケーション不足で、信頼関係が崩れる
金額や条件の前に、「この人に託せるか/一緒にやれるか」という感情面の信頼が崩れると、 それだけで話が止まってしまうことがあります。 特に小規模SaaSでは、オーナーの思い入れが強いことも多く、 その温度差が原因になることもあります。
- メール・チャットだけで進め、表情の見える対話がほとんどない
- 技術的な事情や制約を、売り手・買い手それぞれが十分に理解していない
- 仲介・アドバイザーを通すあまり、意図が伝言ゲームで歪む
回避策:節目ごとに「同期的な対話」と「前提の言語化」を挟む
重要な局面では、オンラインミーティングで直接話し、合意した前提をテキストで残すことが有効です。 技術的な論点は、エンジニア同士が直接話す場を設けることで、 誤解を減らすことができます。
売り手・買い手・仲介それぞれができること
- 売り手: 売上・顧客・技術・運用の現状を正直に棚卸しし、「良いところ」と「課題」をセットで共有する
- 買い手: 自社の前提(技術スタック・チーム体制・投資可能なリソース)を伝えたうえで、 持てるかどうかを率直に議論する
- 仲介: 売り手・買い手双方の言語を翻訳し、前提条件・合意事項を文章として整理する
ライチョウテックパートナーズでは、こうした失敗パターンを踏まえながら、 小規模SaaSのオーナー・買い手・仲介の間に立ち、「前提を揃えること」に重きを置いてご支援しています。